注目キーワード

政策・マーケット

安くておいしい魚が買ってもらえない!? 現代漁業が抱える問題

魚市場ではいま、"目利き"を頼りにする仲買人の需要が下降傾向にある。無名の良品質よりも「ブランド化された魚」ばかりが買われていくという現状には、加工食品・外食に頼るようになった"日本の食文化の危機"が表れているように見える。

品質よりもブランド化された魚が
優先される現実

大阪の難波の近くに木津という魚市場がある。そこには手練れの仲買人が集う。漁の状況はその日次第だから、無名の産地からでも脂ののったよいものが届くこともあれば、ブランド化された産地の魚(たとえば大分の佐賀関で水揚げされるサバは「関サバ」と呼ばれて、一尾ずつが番号をつけられて取引される)でも、品質がいまいちのこともある。それを即座に判別することを「目利き」という。目利きは長年の修業で培われるものであり、仲買人の誇りだ。

ところが、その仲買人の間から「安くておいしい魚が買ってもらえない」という嘆きが聞かれる。その一方、ブランドものならば無条件に高値で買われていく。

日本の食卓は
“加工済食品”のニーズが高い

なぜ、このようなことになったのか? 一口で言うと、魚が家庭で調理されるものではなく、外食店で注文したり、加工済みのものをスーパーなどで買ったりするものになったからだ。かつては、消費者は、近所の魚屋に行って、店主と会話しながら鮮魚を買って、自宅でさばいていた。安くておいしい魚を求めて、魚屋の店主は木津にでかけ、仲買人の目利きにかなった魚を仕入れてきた。

しかし、いまや街角から魚屋が消え、消費者はチェーン展開の外食店やスーパーで調理済ないし処理済の魚を求める。それらの店舗は、チラシなどの準備のため、日々の商品やメニューの仕入れ計画を、最短でも1カ月前にはきめる。その際、ブランドを強調して消費者をひきつけようとする。その結果、当日の魚のよしあしよりも、事前に決めた仕入れ計画の履行が優先となる。

外食店やスーパーは魚を丸ごとではなくフィレなどに加工したものを欲しがる。木津で働く人たちも、加工に比重を移す傾向があり、目利きは軽視されていく。

そういう中、難波の老舗の料亭は、いまも仲買人の目利きを頼りに仕入れをする。しかし、そういう取引は少量にすぎず、存在感は細る一方だ。

このままでは目利きの技能が継承されず、消えていくかもしれない。日本の食文化の危機だ。

プロフィール

明治学院大学 経済学部経済学科教授

神門善久氏


1962年島根県松江市生まれ。滋賀県立短期大学助手などを経て2006年より明治学院大学教授。著書に『日本農業への正しい絶望法』(新潮社、2012年)など。


AGRI JOURNAL vol.9(2018年秋号)より転載

関連記事

農業機械&ソリューションLIST

アクセスランキング

  1. 憧れの自動運転!トラクター自動化製品まとめ 【スマートトラクター編】...
  2. 【知って得する】若手農家必見! 農家が知るべき3つの「生産性」とは?
  3. ハイスペックで格好良い!「次世代軽トラ」の実力
  4. 2023年注目農業ウェア・アイテム6選! セレクトショップのおすすめを紹介!...
  5. 神木隆之介が天才植物学者に! 朝ドラの舞台・高知の生産現場で実感した「強さと努力」...
  6. 手強い雑草を制しつつ、環境にも優しい? “二刀流”の除草剤を使いこなせ!...
  7. 低コストで高耐久! 屋根の上で発電もできる「鉄骨ポリカハウス」
  8. 「生産活動そのもの」を価値として販売するには? コメ農家の未来を切り開く、生産者の奮闘...
  9. 軽トラカスタムの新潮流!親しみやすさが人気の『レトロカスタム』
  10. ゲノム編集と遺伝子組み換えの違いは? メリットを専門家が解説

フリーマガジン

「AGRI JOURNAL」

vol.32|¥0
2024/07/19発行

お詫びと訂正