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生産者の取組み

地産地消と人材活用で事業を切り拓く! 里山資本主義的「農福連携」の可能性とは

青森県上北郡おいらせ町の「アグリの里おいらせ」は、「農福連携」を切り拓いた観光農園。「地域に眠っていた人的資源」を、六次産業に活かしたことは「里山資本主義的」だろう。これからの農業の在り方について、地域エコノミストの藻谷浩介氏が説くコラム。

知的障がいを持つ若者たちの
仕事の場を作りたい

採れたての新鮮な野菜や特産品などを直売し、天然温泉足湯や観光農園、レストランなどを併設する観光施設。全国各地に「道の駅」が増えた今、さほど珍しくはない。
 
だが、青森県上北郡おいらせ町の「観光農園・アグリの里おいらせ」には、他所と違う特色がある。第一に役場の関与のない純民間の施設であること。第二に、事業主体が農家ではなく社会福祉法人だということだ。さらに言えば、集客力と賑わい方も半端ではない。
 
事業主の社会福祉法人誠友会はもともと、全国に無数にある老人福祉事業者の1つである。1983年に特別養護老人ホームを開設、以後、デイサービスセンター、居宅介護支援センター、グループホームを次々と開設してきた。だが、理事長にはもう一つ、知的障がいを持つ若者たちの仕事の場(授産施設)を作りたいという、特別支援学校でボランティアをした学生時代からの想いがあった。
 
そのためには、資格の必要な介護ではなく、農業に取り組まねば。そう考えた理事長は2004年、老人ホームで持っている温泉を活用して、熱帯果樹を育てる温室を設置。そこから通年収穫できる青森県最大級の観光いちご農園の開設、産直店舗や足湯の併設へと、事業を広げていった。2008年には株式会社アグリの里を設立。レストランやパン工房、そば工房を設け、農産物の育成管理、調理補助、敷地内清掃など、多くの場面で障がい者の雇用を創り出した。



様々な授産施設
障がい者の特性が発揮できる場に

授産施設は障がい者に、仕事のやりがいと楽しみ、収入を与える。それだけでなく、いわゆる「健常者」にはない、特殊な能力・特性を発揮できる場にもなっている。
 
例えばイチゴ栽培では、光を均一に当てて色むらを防ぐため、手作業で果実を回転させる必要がある。ついつい手抜きしてしまいがちなこの工程を、強い集中力を持つ障がい者が根気よく行うことで、高い品質が実現できた。
 
とはいえもちろん、障がい者の特性が発揮できる場は全体の一部だ。ここでは地域の中高年女性を中心に、多数の健常者スタッフが、障がい者と優しく息を合わせて、施設運営に携わっている。そのため施設内には、いつも明るい笑顔が溢れていて、これがまた、多くのお客様を引き付けている。
 
特に人気なのが、自家製に加えて地域の農産物も活用した、ビュッフェスタイルの農園レストランだ。料金は大人1450円(税込)と地域の相場からすれば高価格なのだが、観光客だけでなく地域住民、特においしいものに目がない女性の支持を得て、常に満員御礼状態だ。



里山資本主義的
「農福連携」の可能性

この取り組みを「里山資本主義」の観点から評価するなら、まずは、地域の農産物を地元で加工・調理し、地元民が消費するという、地産地消の先進事例ということになる。高品質のものを高価格で提供し、生産者の所得を増やし、地域経済内の好循環を生んでいる。
 
だがそれ以上に「里山資本主義的」なのは、障がい者という「地域に眠っていた人的資源」を掘り起こして、農業をベースとした六次産業に活かしていることだろう。主眼はあくまで人材活用にあり、事業はその手段に過ぎない。
 
「アグリの里おいらせ」の切り拓いた事業分野は最近、「農福連携」と呼ばれるようになった。現時点では、各地にばらばらに先進事例が存在している状態だが、「里山福祉研究会」と名の付いた連携の取り組みも始まっている。今後ますます注目すべき分野といえる。
 

PROFILE

株式会社日本総合研究所

地域エコノミスト 藻谷浩介氏


株式会社日本総合研究所主席研究員。地域の特性を多面的に把握し、地域振興について全国で講演や面談を実施。主な著書に、『観光立国の正体』(新潮新書)、『日本の大問題』(中央公論社)『里山資本主義』(KADOKAWA)など多数。


AGRI JOURNAL vol.14(2020年冬号)より転載

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