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小型バイオマス発電を核に循環型農林業を実現する! オムニア・コンチェルトの『木製ハウス』に迫る

10月に行われた農業WEEK2023会場でひときわ異彩を放っていたのが、オムニア・コンチェルトが展示していた『木製ハウス』だ。同社は、この木製ハウスと小型バイオマス発電を基軸に、地域農林業を効率的かつ持続的に機能させるエコシステム事業を構築する。

小型バイオマス発電の排ガスから
CO2を取り出し農林業に利用する

東京都港区に本社を置くオムニア・コンチェルトは、農林業用環境制御盤の開発・製造・販売を行っている。CO2局所施用技術、環境統合制御技術、遠隔監視制御技術などで知られるテヌートのグループ会社であり、テヌートが有する農林業に関する技術・知見をバイオマス発電所を基軸とした事業に展開することを目的として設立された。

分かりやすい例が、2021年に宮崎県串間市でシン・エナジー社と共同で行った実証実験*1だ。林業に詳しい方ならご存知だと思うが、宮崎県は杉素材(丸太)生産量で32年連続して日本一に輝く林業王国である。この豊富な森林資源=杉の間伐材を燃料とする小型バイオマス発電所の排ガスから効率的にCO2を回収して農林業に活用することを目指した。オムニア・コンチェルト代表取締役の藤原慶太さんが教えてくれた。

「この実証実験の目的は、小型バイオマス発電所に適した排ガス浄化・濃縮プラントシステムを開発し、林木育種育苗促成栽培すること。小型バイオマス発電所は地域から出る間伐材を燃料にして電気を生み出すことが目的ですが、一方で木を燃やすからCO2やNOx、SOxが出てきます。この排気ガスを浄化してCO2を取り出し、農林業用ハウスに供給すれば、生育が良くなるうえ環境への負荷がない。無駄なく全体を調和させることができるのです。
弊社にはCO2局所施用や環境制御盤といった、農業ハウスでの収量を高めるための技術がありますから、それらを組み込むことで林業と農業、そして地域社会に貢献する持続可能なエコシステムができるのではないか、と考えました」(藤原さん)。

藤原さんによると、排ガス中のCO2を濃縮する技術は存在するものの、その多くが大規模プラント向けの技術。容易には小規模バイオマスに適用できないのだとか。オムニア・コンチェルトは、そこに挑戦した。この実証実験で使われたのが、農業WEEKで展示されていた2.2×2.2mサイズの『木製ハウス』だ。

「小型バイオマス発電所から出る排ガスに含まれるCO2を簡易浄化回収して、それを『木製ハウス』内の林木育種苗に局所施用しました。栽培したのは杉の苗木(Mスター苗)で、縦型水耕栽培システム等で栽培しました。
オムニア・コンチェルトの環境統合制御機器『コンチェルト:OECS-1000』と遠隔監視制御システム『Sfumato』を活用して、温度、湿度、CO2濃度、照度を見ながら統合環境制御を行いました。木製ハウスには、天面と側面に弊社が独自開発した太陽光パネル付きブラインド、換気用ファン、サーモグラフィカメラなどが装備されており、また、照度センサーを配置しており、夕方から夜間になるとLEDを点灯させました。回収したCO2は最適なタイミング・濃度で局所施用しました。もちろん潅水、排ガス浄化も遠隔自動制御です。浄化の状況や、CO検出においては、アラートやパトライト機能により危険管理も徹底しております」(藤原さん)。



統合環境制御&遠隔監視制御下で、小型バイオマス発電の排ガス由来のCO2を施用して栽培したリーフレタスは、対照区(同じ統合環境制御&遠隔監視制御下でCO2を施用しないで栽培)のリーフレタスと比較して、可食部分の重量が1.27倍にまで育った。

「CO2施用による収量増加は期待通りでしたが、CO2回収コストを下げる、という課題がみつかりました。隣接するハウスに供給するのであればCO2濃度は植物体近傍で2,000ppm程度で充分であり、当初の実験のように高濃度に濃縮する必要がないことが分かりましたので、その後、弊社単独で技術開発を進めました」と、藤原さんは語る。

現在は実証実験で採用した手法ではなく、CO2回収コストを大幅に削減できる技術を採用することで、当初の設備コストの数十分の1程度にまで、下げることに成功。排ガスの浄化についても、NOx、SOxを低減できるだけでなく、COは完全除去できるようになった。
「この2年間の開発により、串間市のプラントは林木育種苗を1年で4倍程度まで促成することが可能な段階となっており、普及を加速させる準備が整いました」と自信を見せる。

 

小型バイオマス発電所を核にした
エコシステムを構築する

将来構想(串間市との連携による複合型農林業施設)

驚いたことにオムニア・コンチェルトは、この小型バイオマス発電所から出るCO2利用をさらにスケールアップさせた未来構想を持っている。それが冒頭で記した、バイオマス発電を中心にしたエコシステム事業構築である。

「実は串間市だけに限らず、地域と連携して、複合型農林業施設を構想しています。ここでも核となるのはバイオマス発電所であり、排ガスから回収したCO2を木製ハウスでの農業や林業に活用します。そのうえで構想している複合型農林業施設では、発電所から出る熱の有効活用を目指します。温水プールや露天風呂などの地域の方が楽しめる施設の運用に活用するほか、『木製ハウス』の加温にも活用することでCO2の農林業利用を加速させることができます。
発電所は売電のほか余ったCO2を地域外に販売することで収入を得ることができますし、『木製ハウス』で農林業収入を得ることができる。効率的に苗木を育てて植林することで、持続可能な林業にも貢献できる。
この未来構想が実現すれば、地域の資源を循環させることで無駄なく活用して、エコシステム=活気溢れる持続可能な地域社会を作ることができるはずです。そんなエコシステムを全国各地にできたら……この思いを伝えたくて農業WEEKに展示したのが『木製ハウス』なのです」(藤原さん)。

CO2局所施用技術、環境統合制御技術、遠隔監視制御技術で確かな製品サービスを有し、小型バイオマス発電所を基軸にしたエコシステム事業構築を目指すオムニア・コンチェルト。この挑戦に注目していきたい。

*1 『小型バイオマス発電所に適した排ガス浄化・濃縮プラントの実証』




文/川島礼二郎

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